2017年9月28日木曜日

珠玉の小説

花の姿を知らないまま眺めたつぼみは
知ってからは
振り返った記憶の中で
もう同じつぼみじゃない

神様が戯れに折って投げた
紙ひこうきみたいな音楽の才能
ある時、突然現れて
そのまますーっと、まっすぐに飛び続けて
いつまでたっても落ちてこない
その軌跡自体が美しい

年齢とともに
人が恋愛から遠ざかってしまうのは
愛したいという情熱の枯渇より
愛されるために
自分に何が欠けているかという
10代の頃ならば誰もが知っている
あの澄んだ自意識の煩悶を
純化させてしまうから


 平野啓一郎の小説『マチネの終わりに』を読んだ。
 38歳の天才クラシック・ギタリストの男性と、40歳の海外通信記者の女性が、互いに強く惹かれ合いながらも、何年もすれ違いを繰り返していく。大人の切なすぎる恋の物語。文章の合間からみずみずしい旋律が聞こえてきた。

 宮下奈都の『羊と鋼の森』を思い起こした。こちらの主人公はピアノの調律師。澄み切ったピアノの音色が聞こえてくる。


一歩ずつ確かめながら近づいていく
その道のりを大事に進むから足跡が残る
いつか迷って戻った時に
足跡が目印になる

ピアノで食べていこうなんて思ってない
ピアノを食べて生きていくんだよ




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